広島県尾道でひとり暮らしを続ける哲代さんの、101歳から104歳までの暮らしを描いたドキュメンタリー映画『104歳、哲代さんのひとり暮らし』。
監督:山本和宏さん。
シネスイッチ銀座で鑑賞してきました。
この映画は、哲代さんの自然な笑顔、穏やかな生活、そして周囲の温かなサポートに溢れた日常を優しい目線で追いかけています。
見終わった後、心がじんわり温かくなる、そんな作品でした。
広島・尾道で一人暮らしを続ける哲代さん
子どもを授からなかった哲代さんは、夫に先立たれた後も、広島県尾道の家で長年ひとり暮らしを続けています。
ですが、実際には地域の人たちや姪っ子さんたちが、絶妙な距離感で彼女を支えていて、決して"孤独"ではない暮らし。
自然体で笑顔を絶やさない哲代さんの姿が、とても愛おしく映りました。
104歳とは思えない滑舌と会話力
まず驚かされたのは、哲代さんのはっきりとした滑舌と、なめらかな会話力。
とても104歳とは思えない元気さで、前向きな言葉が次々と飛び出します。
「頑張らない」「無理なことは望まない」という、自然体の生き方が滲み出ていて、とても心に残りました。
さらに哲代さんは、地域のみんなと「仲良しクラブ」を作り、定期的に集まって会話やお茶を楽しんでいました。
その場に大正琴を持って行き、自作の曲を大きな声で披露することも。
思わず笑ってしまうような妙な曲でしたが、その朗らかさと声を出す姿がとても健康的で、体にも心にも良さそうに見えました。
高齢による衰えも愛おしい
一方で、映画の中では哲代さんの「高齢ならでは」のエピソードも描かれます。
片付けができず物がなくなる、小さな記憶違い、薬の飲み忘れ…。
「あれ?うちの母と一緒だ!」と親近感が湧く場面がたくさん。
家族だとイライラしてしまうことも、映画を通して見るとただの微笑ましいシーンになり、反省させられました。
火事未遂とIHコンロへの切り替え
特に印象的だったのは、ガス台からIHコンロに変えたエピソード。
割烹着と髪の毛に火がついてしまうという事故未遂があり、姪っ子さんたちが「もう火は危ない」と判断。
哲代さん本人はその出来事をすっかり忘れており、
「まあ、生きてるんだから大丈夫だったんじゃない?」と笑い飛ばす様子が可愛らしかったです。
「あれ、どこ行った?」お誕生日ブラウスのエピソード
もう一つ笑ったのは、お誕生日にスタッフさんに買ってもらったブラウスの話。
翌年、「今日あのブラウス着ませんか?」と聞かれても思い出せず、ようやく思い出しても見つからない!
「どっかにはあるのよ」
「おっかしいわねえ。。。本当に不思議、消えちゃうのよねえ」と笑う姿に、またまたうちの母の姿を重ねてしまい、これまた反省…。
母がこれを言うたびに
「消えるわけないでしょ!!」と怒っている自分がバカらしくなった(笑)
年を重ねることって、こういうことなのかもしれませんね。
妹・桃ちゃんとのガラス越しの再会
一番心に残ったのは、年の離れた妹・桃ちゃんとの再会シーン。
脳梗塞で寝たきりの桃ちゃんに、コロナ禍のためガラス越しでしか会えませんでした。
「桃ちゃん、聞こえる?お姉ちゃんが来たよ」と何度も呼びかける哲代さん。
その後、帰宅して詩に綴った「ガラスの厚さ、桃ちゃんの温もりを感じたかった。私の背中で大きくなった桃ちゃん、あなたの吐息を背中で感じていた子供の頃、可愛くて可愛くてたまらなかった桃ちゃん・・・」という言葉が胸に刺さりました。
でも悲しい気持ちを抑えて、
再会を実現してくれた周りの人たちへの感謝をいっぱいいっぱい伝えていました。
戦争開戦当時の校長先生の朝礼エピソード
哲代さんは元・小学校教師。
戦争が始まった1941年12月8日の朝、校長先生が真っ赤な顔で朝礼で
「戦争が始まった!」と言う言葉を、哲代さんは今でもはっきりと覚えていました。
開戦当時の異様な空気感や緊張感がにじみ出てきて、長い人生を生き抜いてきた哲代さんならではの重みを感じさせられました。
哲代さんの根底にある「長男の嫁」としての使命感
子供を授からなかったことに対して、「長男の嫁としてご先祖に申し訳ない」と語る哲代さん。
その想いが、実家を守るという強い意志に繋がっているのだと感じました。
一見、穏やかに楽しく暮らしているように見えても、その裏には深い覚悟と責任感があるのだと知りました。
人によっては、どうでもいいこと・・・(と思ってしまいました)ですが、
人それぞれ。
その人なりに負い目に感じたり後悔したり、または感謝したり。。。人は本当にそれぞれなんだ、とあらためて知りました。
苦しい胸の内は、なかなかわからないものですね。
そして、自分の感じる気持ちを抱えて生きて行くことが、その人の人生の形になって行くんだなあ、と思いました。
できないことを受け入れ、人に感謝する生き方
映画の後半では、以前できていたことが、少しずつできなくなっていきます。
食事は宅配に、お風呂もデイケアサービスで。
けれど、できなくなったことを嘆くのではなく、人の手を素直に受け入れ、感謝して暮らす哲代さんの姿がとても素敵でした。
「極楽極楽!」と言いながらデイケアで入るお風呂、あんなふうに年を重ねたいと心から思いました。
それにしても99歳までは自分で薪をくべてお風呂を沸かしていたんですって!!
立派すぎる〜。
優しいナレーションが寄り添う
映画全体を通して、俳優・リリー・フランキーさんによる静かで優しいナレーションが流れます。
哲代さんの自然体の暮らしや心情にぴったり寄り添うような語り口で、観る側も穏やかな気持ちになりました。
まとめ|哲代さんの生き方に学ぶ、優しさと感謝の心
『104歳、哲代さんのひとり暮らし』は、ただ長寿を祝う映画ではありませんでした。
哲代さんの自然体の笑顔、周囲の人々への感謝、できないことを受け入れる柔らかさ──すべてが、これからを生きる私たちに大切なヒントをくれる作品でした。
笑って、泣いて、心がじんわり温かくなる一本です。